2015年12月18日金曜日

„Monster in Berlin“

„Monster in Berlin“
作者:ヨアヒム・トラップ(Joachim Trapp
言語:ドイツ語、フランス語、英語、オランダ語、日本語。
出版社:Verlag Hans Schiler

 本を好むといっても、手当り次第というわけではありません。理数系の専門書は定年後にゆっくり読むつもりですし、絵本はもし自分が家庭をもつことになったら、という具合で現在手にとるのはもっぱら歴史に関するものか、ドイツ語もしくは言語学習に類するものです。しかしフト絵本ということで考えてみると、ドイツの絵本というのはどんなものだろう、と新たな興味が湧いてきます。そこで今回は、Monster in Berlinを紹介しましょう。絵本といっても、この中ではモンスターの絵とベルリンの写真が合成されていて、案内書のようなおもむきもあります。またドイツ、あるいは海外のKinderbuchに特有なものを見出すことはできるのでしょうか?翻訳の体験談も含めて、日本語の部分を訳された、学部4年生の宇津木 璃音さんに聞いてみましょう。

宇津木さんはこれまで、市の姉妹交流の際に、通訳や個人的な依頼による翻訳活動をしてきました。高校のときにドイツへ留学、その当時のホストファーザーは小さな出版社を経営しており、それが縁となって今回のお話をいただけたということです。その人が宇津木さんを絵本作家のTrappさんに紹介したことによって、Monster in Berlin (日本語訳・宇津木 璃音)という事実は小説よりも奇なり、と表現したくなるような展開になりました(今回紹介するのは絵本ですが)。
(以下、「 」部分はすべて宇津木さん)
 「Trappさんは、この本を通じてより多くの子供たちがベルリンという町に興味を抱くことを期待しているそうです。この絵本は、子供たちが年をとっても覚えているような物語を伝えているわけではなく、どちらかというと子供のための観光ガイドブックのような役割を果たすと考えています。興味のきっかけというか、ベルリンへの入り口のような感じです」
 「今回Trappさんとお仕事をしていて、非常に面白い発見がありました。これは、ドイツの絵本特有なものであるのか、わかりませんが、子供には少し難解だと思われるユーモアも文章に含まれていました。初めにこの絵本の原文を読んだ際、これだと子供には伝わらないのではないか、と何度か作者と議論をしました。最終的に、日本語にするにあたって、いろいろな候補の文章とそのニュアンスを伝え、話し合いの結果、日本語ではそういった部分は取り除くという選択もしました。しかし、基本的にTrappさんは、子供たちに少し考えて、面白い!と感じる瞬間に意味があるのだと考えており、そのために彼流のユーモアが文章には隠れています。こうした子供のもつ力を信じる姿勢は、ドイツらしいという印象を受けましたし、個人的にとても好きです。Trappさんのそんなメッセージに気づいて頂くためにも、大人の方には私が訳した日本語ではなく、むしろドイツ語を頑張って勉強していただいて、一緒に載っている原文に注目して頂きたいです」
 「今回の翻訳については、今までにやらせて頂いた国際交流の場の通訳等とは違い、かたちとして残るものなので、私にとってとても印象深いものになりました。また、かたちに残るものに関わらせて頂いたということよりも、むしろ普段あまり見返すことや、多くの人のレビューを頂くようなことはないので、反省点や改善点といった今後の課題をきちんとつかむことが出来る機会を頂いたという意味で、とても特別な経験だと思っています」

 原文のユーモアに注目して、理解しようと努める、なかなか魅力的な作業です。ドイツ語学科のみならず、第二外国語としてドイツ語を勉強している人も、一度手にとってみてはいかがでしょうか。インターネットで購入可能です。
 語学系のゼミに所属しているせいか、ユーモアという言葉に反応してしまいます。おそらくそうした経験をした人も多いと思いますが、ただなんとはなしに、感情を交えずに語学を勉強していると、右から左に流れていってしまうものです。しかしこれならどうでしょうか。ドイツ語学習に疲れてしまった、そんなときにも是非試してみてください。
ユーモアからはなれて教育の話に移りますが(また子どもの言語学習といった話になりますが)、読み聞かせをすると語彙力と自己肯定感が育まれるといいます。実際に、Bilderbücher vorlesen Pädagoge“ などで検索してみると、vorlesenによってSprachgefühlSelbstwertgefühlが涵養されるといった情報が得られます。そして私と同じゼミの学生にはおなじみの„Wortschatz zu erweitern“。
 語学はともかく、内容は絵本と直接関わりのある人にも勧めたくなるものになっていると思います。
 「実は私にとって、ベルリンという町は自分の人生の分岐点となった場所で、特別な場所です。この絵本では、そんなベルリンをモンスターたちが旅するのですが、皆さんにとってもきっとそういった特別な場所があると思います。旅をする時というのは、新しい人やモノとの沢山の出会いを経験して、ドキドキ、ワクワクしますよね。あらゆる経験を通じて、知らなかった自分の感情にも出会うものです。この絵本が、そうした出会いの一つとなりますように!そして絵本に留まらず、是非一度ベルリンにも足を運んで見て下さい。欲を言えば、この絵本がそのきっかけとなるのが、私の理想です(笑)」

 そして国技と言ってもいいのでしょう、やはりFußballに関するページもいくつかあります。このあたり、いかにもドイツらしいなと思ってしまいました。
 「サッカーに情熱を注ぐ人が多いのは、確かにドイツの特徴の一つだと思います。そして実は私は、サッカーにとても疎いです!サッカーを熱く語れるようになるのも、今後の課題です(笑)」

 宇津木さんご自身もユーモアのある人のようです。それはともかく、やはり努力やドイツへの思い入れがあったからこそ、今回のような仕事に結び付いたのだと思います。こうした経験をできるのは、なるほど少数の人にとどまることでしょう。しかし諺にもあるように、継続は力なり、チャンスはそのような中でやってくることもあるのです。
 「今後も機会があれば、積極的にこうした依頼は引き受けたいと思っています。ただ、私の中で自分自身の能力に満足でない点や未熟さを感じるところが多々あるので、胸を張って「やらせて下さい」と言える自信をまずはつけることが当面の目標ですね」

Yuki Watanabe


http://monsterinberlin.deMonster in Berlinホームページ)
宇津木 璃音さん(ドイツ語学科4年生)

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