2016年7月8日金曜日

Rimini Protokoll "Adolf Hitler: Mein Kampf, Band 1 und 2"

 昨年の12月31日をもって、アドルフ・ヒトラーの著作『わが闘争』の版権が切れるということで、ドイツでは長らく議論が展開されてきました。戦後、この著作のドイツでの印刷・刊行は一切が禁じられ、版権はヒトラーが最後に住民票を置いていたバイエルン州が保有するということで、これまではこの著作が世に出るのを抑制してきました。

 版権が切れた後、どうするのかということについては、今年の1月にドイツの歴史学研究所が他分野の専門家を集めて、膨大な注釈を付けた上で「史的批判版(historisch-kritische Ausgabe)」として出版するということで、一つの答えが出されました。ただ、この版は印刷媒体としての刊行に限定するのか、デジタル版の無料配布はしなくて良いのか等、まだまだ議論は続いている状況ではありますが。

 
 Edition "Hitler. Meinkampf" Eine kritische Edition. Bd. I & II. Herausgegeben von Institut für Zeitgeschichte. München, Berlin, 2016.

 この版は、発売前から注文が殺到し、年明けの発売後(1月8日)、瞬く間に品切れとなりました。ドイツでは、報道番組のインタビューなので、街中の人々の様々な声が紹介されました。
 この版については、以下歴史学研究所のリンクをどうぞ。


 この夏には、ライプツィヒのシェルム出版なる出版社が注釈のないものを新たに刊行しようとしており、今後どうなるのか注目の話題です。



 さて、前置きが長くなってしまいましたが、今回のブログでは、このテーマを扱った演劇作品を紹介したいと思います。近年、ドイツで注目を集めている演劇集団(演出家集団)リミニ・プロトコルというグループが昨年9月に、ヴァイマールにあるドイツ国民劇場(Deutsches Nationaltheater Weimar)との共同制作で、この『わが闘争』の舞台化が試みられました。
 このリミニ・プロトコルは、ギーセン大学応用演劇学科出身の3人の演出家たちからなるグループで、彼らの作品にはプロの俳優は登場せず、日常世界から集められた、作品テーマに関連のある「エキスパート」たちが出演します。日本でもこれまで3度、来日公演が行われました。同作品においても、『わが闘争』と何らかの関連を持つエキスパートたちが登場し、自身とこのヒトラーの著作との体験が語られます。
 同作品は2015年9月にヴァイマールのドイツ国民劇場で世界初演され、その後ドイツ各地で上演されています。筆者は昨年10月にミュンヘン(カンマーシュピーレ劇場)で、今年1月にベルリン(HAU劇場)にて、同作品を観劇し、また上演後のトークなどにも参加してきました。

 この度、同作品がラジオ劇(放送劇)版が制作(録音)され、WDR3でラジオ放送されました。現在、同番組のウェブサイトにて、期間限定で視聴することができます。約54分と少し長く、会話も通常のスピードで展開するため聴解は楽ではないですが、このホットなテーマに関するドイツの人たちの生の声が聴ける貴重な機会なので、是非一度聴いてみたらいかがでしょうか。
同放送のリンクページ

 同作品について、筆者の観劇体験に基づく詳しい記述は、またの機会に譲りたいと思いますので、お楽しみに。








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