去る2月18日(日)、デュースブルク=エッセン大学(Universität Duisburg-Essen)の先生に誘われて、ケルン(Köln)近郊にあるブリュール(Brühl)という小さな町のカルネヴァル(Karneval)に出かけてきました。
カルネヴァルというのは、英語のカーニヴァル(carnival>注1)に対応するドイツ語で、もちろん謝肉祭のことを表します。しかしこの謝肉祭、ドイツでは必ずしも全国的な現象というわけではありません。伝統的にその中心地は二つ。ひとつは、ケルン(Köln)、デュッセルドルフ(Düsseldorf)、マインツ(Mainz)に代表されるラインラント(Rheinland>注2)、もうひとつはミュンヒェン(München)などに代表されるドイツ南部。どちらもカトリック色の濃い地域です。祭りの呼び方も両者では異なり、ラインラントではカルネヴァル、ドイツ南部ではファッシング(Fasching)、ファストナハト(Fastnacht)という言い方をします。いずれにせよこのお祭り、ファステンツァイト(Fastenzeit=四旬節>注3)に入る前の1週間ほどの期間、だれもがさまざまな仮装をし、羽目を外して大騒ぎをすることになっています。中心日であるローゼンモンターク(Rosenmontag=バラの月曜日>注4)には、騒々しい音楽を奏でたパレードも繰り出します。
さてブリュールのカルネヴァル、ケルン文化圏にあるこの小さな町では、ローゼンモンターク前日の日曜にパレードが行われるのですが(おそらく月曜には、人々がケルンに出かけてしまうので)、ケルンやデュッセルドルフといった大都市で開かれるお祭りと違い、こじんまりとしていて、その分とても親密で温かい雰囲気にあふれています。「ヘーラウ!(Helau!)」「アラーフ!(Alaaf!)」といったカルネヴァル特有のかけ声があちこちで聞こえる中、目玉のパレードでは、(参加企業や団体により)それぞれに工夫を凝らした飾り付けが施された自動車や馬車の行進が延々と続き、お菓子や日用品をばらまいていきます。やはり思い思いの仮装をし、買い物用布袋を片手に沿道で待ちかまえている人々がさかんに手を振りながら「カメレ〜!(Kamelle!)」と叫ぶので、とにかくまねをしてみました。隣のおじさんに意味を尋ねたところ、語源的にはどうやらカラメル(Karamell)と同じらしく、要するに「甘いもの=お菓子をおくれ〜!」ということのようです。ただし、このおじさんかなり酔っぱらっていたので、真偽の程は定かでありません。おじさんが酔っぱらっていたのは、ケルン特産のビール、ケルシュ(Kölsch>注5)のせい。もちろんぼくもご相伴にあずかりました。ついでながら、この場面で、デュッセルドルフ特産のビール、アルト・ビーア(Altbier>注6)を飲んでいたりするのは、ほとんどけんかを売っているようなものです。ケルンとデュッセルドルフはつねにライヴァル関係にあるからです。
そのうち自然に歌がわき上がり、互いに腕を組み音楽に合わせて身体を左右に揺り動かすシュンケルン(schunkeln)が始まります。ぼくも見知らぬお隣さんとシュンケルンし、口まねして歌っているうちに、いつの間にか歌詞を覚え、気がついたら陽気な仲間の輪にしっかりとけ込んでいました。
何度か授業で、ドイツに関して持っているイメージについてのアンケートをとったことがありますが、一番目立った答えは、たいてい「堅い」という形容詞でした。もちろんそのイメージが的を射ていると思うこともありますが、こうしてカルネヴァルに加わって一緒にシュンケルンしてみると、「陽気で明るいドイツ人」というまた別の一面を、肌で感じることができるような気がします。
結局その日は、パレードの後、誘って下さった先生のお友だちの方々(地元の演劇・音楽関係者)と居酒屋へ繰り出し、帰宅したのは夜中過ぎ。ケルシュの飲み過ぎで翌日は、やや二日酔い気味でした。カルネヴァル参加者のことを「ナレン」(Narren=愚か者たち)と言いますが、まったくナレンことをするものではありません。でも、本当に楽しく印象的な一日でした。 (At・Y)
注1 Karnevalにせよ、Carnivalにせよ、もともとはラテン語のcarne vale!「肉よ、さらば!」に由来する言葉です。
注2 ライン川中・下流地域
注3 灰の水曜日から復活祭前日までの、日曜を除く40日の断食期間。もちろん今日では、断食する人はほとんどいません。(Fastenが「断食」です。ご存じのように、英語のbreakfastは「断食を終わりにする」というところから来ています。)
注4 一説には、Rasenmontag「狂騒の月曜日」がなまったものと言われています。
注5 ケルン周辺で飲まれる、淡い黄金色でアルコール分が少なめのビール。おいしい。
注6 とりわけデュッセルドルフ近辺で飲まれる黒ビール。これもおいしい。
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