2017年6月23日金曜日

【学生記事】ドイツ語の面白い表現


ドイツ語学科ブログ学生記者を担当させていただきますヨシタカと申します。今回は記念すべき第一号です。
今回は自分が今まで見たドイツ語の興味深い言い回しを3つ紹介してみようと思います。この記事を書くにあたってはドイツ語版Wikipediaの他、Duden Deutsches Universalwörterbuch を参照させていただきました。

1Das ist mir ein böhmisches Dorf!
直訳:「これは私にとっちゃボヘミアの村だ
意味:「これは私にはちんぷんかんぷんだ

 この表現は、ドイツ語の勉強をしていた時に偶然見つけたものです。ドイツ人の友達にこの表現を知っているか聞いたら「なんだこれは」と大笑いしていました。実はあまり知られていないのかも…。
böhmisch というのは「ボヘミアの~」という意味。つまりein böhmisches Dorf はそのまま「ボヘミアの村」という意味です。この部分は複数形にして böhmische Dörfer つまり「ボヘミアの村々」と言い換えても大丈夫です。
ちなみにボヘミアはドイツ語で Böhmenで、現在のチェコの西部・中部地方を指します。ちなみに東部はモラヴィア(ドイツ語でMähren)といいます。現在チェコはドイツに隣接する国の一つです。
 この慣用表現の由来は16世紀のボヘミア王国まで遡ります。1526年以降ハプスブルク王朝の支配を受けていたボヘミア王国では国境沿いのズデーテン地方にドイツ人移民を多く抱え込み、そこでは主にドイツ語が話されていました。それに対してボヘミア王国の国境沿いではない、といってもイフラヴァやプラハを除いた中心寄りの地域では、ボヘミア語(つまりチェコ語)が話されていました。つまりドイツ語母語者がチェコの中心寄りに位置するプラハにでも行こうとしたなら、チェコ語が話されている地域を通る必要があった訳ですね。それらの地名もそこで話されている言語もそれらドイツ語話者にとってはちんぷんかんぷんであったことから、この慣用表現が生まれたようです。

▴チェコにおけるドイツ系移民の多い地域   
 右の地図はチェコの地図で、色が濃くなっている部分は、1930年頃ドイツ語話者が数多く住んでいた地域です。16世紀当時のものを表しているという訳ではありませんが、歴史的に国境沿いやプラハなどでドイツ語が話されていたというのはなんとなく理解できると思います。ちなみに、ドイツの有名な作家であるフランツ・カフカ(Franz Kafka)も1883年このプラハで生まれ、プラハ市内のドイツ(人)学校に通っていました。
 蛇足ですが、同じ意味の表現として Das ist für mich chinesisch!“「これは私にとっては中国語だ」 があります。何かが中国語のようにちんぷんかんぷんだという表現ですが、「これは私にとってボヘミアの村だ」では「ボヘミア語」ではなくわざわざ「ボヘミアの村だ」と言うところがまた面白いですよね。

使い方:
„Diese Mathe-Formel ist mir ein böhmisches Dorf!“
「この数学の公式は訳が分からないよ!」



2Mein Name ist Hase (, ich weiß von nichts).
▴Hase(うさぎ)   
直訳:「私の名前はうさぎです(、それに関してはなにも知りません)。
意味:「私は何も知りません、その件とは関わりたくありません。

Haseはドイツ語でうさぎのことで、後ろの„davon weiß ich nichts.“「私は何も知りません。」の部分は言わなくてもOK。ということは、ある件に関して何も知らないと言いたいとき「私の名前はうさぎだ。」と言えば通じるわけです。ただドイツ人の友人から聞いた話ではこれは冗談交じりに使うことが多いようです。真剣な場面ではあまり使わない方がいいかもしれません…。

▴Victor von Hase   

この言い回しは19世紀中頃のドイツ、ハイデルベルクで開かれたある裁判をきっかけに生まれました。そこで扱われた事件が、1854年ハイデルベルク大学で法学を学んでいた学生ヴィクトル・フォン・ハーゼ(Victor von Hase)が、彼の学生証を使って決闘で他の学生を射殺した同じ大学の友人の逃亡を幇助したというもので、その裁判冒頭でのハーゼの供述が „Mein Name ist Hase; ich verneine die Generalfragen; ich weiß von nichts.“「私の名前はハーゼ(うさぎ)です。すべての質問を拒否します。私は何も知りません」でした。この供述が瞬く間にドイツ全土へと広がっていき、使われるようになったようです。しかし、Wikipediaには残念ながらこの裁判の結果は載っていませんでした…。
ちなみに、うさぎが出てくるドイツ語の慣用表現は実は他にもいろいろありますが、その「うさぎ」というのが人名である例はこれ以外にはないのではないでしょうか。

ここでせっかくなので、このハーゼさんがどういう人生を送ったのかもざっと調べてみました。
ヴィクトル・フォン・ハーゼ1834113日ドイツ、チューリンゲン、イエナに生まれました。18496月アイゼナハのギムナジウムに入り、1853年春にイエナ大学で法学を学び始めました。翌年1854年春にライプツィヒ大学へと移った彼ですが、ここで聖職者に向かって対立するような意見を述べたため6日間の拘留刑を受けています。1854年秋またもハイデルベルク大学に鞍替えした彼は、そこで例の事件に関する裁判を受けます。なんだかんだあったものの、18576月アイゼナハの高等裁判所で国家試験に合格した彼は同年7月法学の博士号を取得し、引き続きアイゼナハで働いたようです。
1859年、彼は住んでいたザクセン=ヴァイマル=アイゼナハ大公国の軍隊に志願し、すぐに下士官に昇進します。同年6月に二度目の法学の国家試験の合格し、またも士官候補生まで昇進。同年10月少尉だった彼は軍を辞め監査官という仕事に就きますが、18603月に肺炎とチフス、丹毒を立て続けに発症し同年430日、25歳という若さでこの世を去りました。

使い方:
„Du weißt doch, wer meinen Füller kaputtgemacht hat!“
「誰が私の万年筆壊したか、知ってるんでしょ
„Mein Name ist Hase, davon weiß ich nichts.“ 
「私は何も知りません。


308/15. („Nullachtfünfzehn“と読みます)
直訳:「ゼロはち、じゅうご
意味:「ありきたりな、オリジナル性のない、普通の

あるドイツ人の友人に、「知らないと理解できないドイツ語の言い回しを教えてくれ」と言って教えてくれたのが、この„08/15“です。„Der Nullachtfünfzehn-Film“„Die Nullachtfünfzehn-Friseur“ と言うと、意味からしてそれぞれ「ベタな映画」、「ありきたりな髪型」という意味にでもなるのでしょうか。


MG08/15機関銃

そもそもこの08/15が何かというと、第一次世界大戦で投入されたドイツ軍の機関銃MG08/15のことです。塹壕戦に使われたのみならず当時登場したばかりの飛行機にも搭載されたとか。Wikipediaにはこの言い回しができた理由として以下の二つの説が載っていました。
一つ目はドイツ兵士たちが毎日のようにこのMG 08/15機関銃を使った単調で退屈な訓練をこなさなければいけなかったことから、「08/15」がいつの間にか「既に飽きてしまった、つまらないルーチン」を指すようになったとするもの。
そして二つ目が、MG 08/15機関銃の質に関わるとするもの。ここでの「08/15」はこの機関銃の初期モデルが導入された1908年と改良がなされた1915年のことで、どちらにせよ導入されてからは機関銃の材料の質が悪くなり、故障の頻度が増えた。それに対して兵士たちが「(この機関銃は)大したものではない」という意味で「この武器は08/15だ」のような使い方をしていたという事です。
 インターネットで調べてみると実はほかにもいろいろ説があって、08/15機関銃が第二次世界大戦時に兵器不足の埋め合わせとして使われたが、結局時代遅れで「大したものではない」兵器であったためという説明もありました。

使い方: Sie ist immer nullachtfünfzehn gekleidet.
「彼女はいつもありきたりな格好をしている。」


以上三つ、紹介させていただきました。こうやって色々な慣用表現を詳しく調査していくと、その背景には意外な奥深さや発見があったりします。それゆえ余談ばかり広がっていくから、こうも長ったらしい記事になってしまうんですね。せっかくなので以下にまとめを書いておきます。どれも一応今でも通じる表現だと思うので、機会があったらぜひ使ってみてください。


まとめ:
1.〔für j4 ein böhmisches Dorf / böhmische Dörfer sein
→(j4にとって)全然理解できない、ちんぷんかんぷんである
2.〔Mein Name ist Hase (,ich weiß von nichts).
→私は何も知らない、私はその件とは関わりがない
3.〔Nullachtfünfzehn -

→ありきたりな、オリジナル性のない、普通の