ドイツ語学科卒業生(1996年卒業)の富川 久美子(とみかわ くみこ)さんが、著書『ドイツの農村政策と農家民宿』(出版社: 農林統計協会)を出版しました。歴史的背景や理論だけでなく、フィールド2例も細かく報告されていて、なかなかの力作です。
興味のある方は、Amazon、7&Y、ビーケーワンなどで購入することが出来ます。
【内容】
ドイツの農家民宿は1970年代以降発展したが、発展期を経た地域を対象とした研究はみられない。本研究の目的は、今日もっとも農家民宿が発展しているドイツを取り上げ、農家民宿の発展における背景としての国家政策を明らかにし、さらに農家民宿とその地域における政策の影響と具現化を検証することであった。農家民宿は、農村における環境を保全し,観光による地域の活性化や社会的効果も期待できる。しかし、そこには農家民宿の推進策が不可欠であり、農家民宿が成熟期を経た地域と、近年の農家民宿の展開が図られる農村地域では,異なる政策が求められる。
【要約】
日本におけるグリーン・ツーリズムの推進は、ドイツの「農家で休暇を」政策を先行例としながらも、経済的な意味での農家民宿の観光利用が先行している。現状では、本来のドイツの政策理念である、農家民宿による環境保全への配慮が欠けている。
本研究の目的は、今日もっとも農家民宿が発展しているドイツを取り上げ、農家民宿の発展における背景としての国家政策を明らかにし、さらに農家民宿とその地域における政策の影響と具現化を検証することであった。
本書では、事例研究地としてバイエルン州、さらに州内の事例地域として、農家民宿の発展段階が異なる二つの地域バート・ヒンデラングBad HindelangとバイセンシュタットWeißenstadtを選定した。
本書によって主に明らかになった点は、第一に、ドイツにおける「農家で休暇」の発展過程である。農家民宿の始まりは17世紀であり、1960年代後半から1970年代初めに農家民宿が増加し、その後,1990年代は「第二のブーム期」を迎えた。第二に、農業と観光の政策の下において、農家民宿が発展し、またそれが地域的に拡大した。とくに1990年以降の農業政策は,特定地域における農家民宿の発展を促したといえる。第三に、農家民宿の発展における休暇制度の意味であるドイツでは、1800年代末以降の有給休暇制度や休暇法の制定を契機に休暇が人々に拡がり、とくに安価な宿泊施設を求める人々の農家民宿滞在を増加させた。第四に、農家民宿地域における近年の動向と「農家で休暇を」政策の影響である成熟期にある農家民宿地域は、農家民宿の経営者が離農し、民宿の専業化が進行している中で、農家民宿の維持とともに前提条件である農業の維持が実現されている。この中で農家民宿は,貨部屋から貸別荘への移行が顕著であり、貸部屋、貸別荘、そしてそれらの併設の3類型への経営分化が確認された。一方、発展期にある農家民宿地域は,従来に比較して、大規模で、設備の揃った民宿を新築する傾向にある。このような新築の傾向と経営戦略は、政策による影響を多大に受けていることは明らかであるが、民宿開業のための補助金支給の制度は必ずしも効果的ではない。第五に、地域の環境保全において農家民宿は大きな意義がある。農家民宿地域では、農家数は漸減に過ぎず、農林地面積は拡大傾向にさえある。
本研究を通じていえることは、農村観光地では,観光資源としての農業維持は、地域にとってもっとも大きな課題であり、農家民宿はその象徴である。農家民宿は、農村における環境保全に重要な役割を担うだけでなく、地域の観光発展の牽引役となる可能性があるが、そこには農家民宿の推進策や地域における環境保全に向けた政策も不可欠である。また、観光化が進展した農村地域と、進展していない地域では、異なる政策が求められる。
【著者コメント】
私は、獨協大学外国語学部ドイツ語学科1996年度の卒業生です。獨協大学には、社会人を経て入学しましたので、先生方にはとてもよくして頂きました。今でも大串先生をはじめ、獨協時代にお世話になった先生方とお付き合いさせていただき、母校としてとても身近に感じています。独協大学卒業後は、立教大学大学院観光学研究科に進学し、修士、博士とドイツに関する研究を続けてきました。今回出版した『ドイツの農村政策と農家民宿』は博士論文を基にしたものです。内容としては、面白いものではありませんが、ドイツは観光の先進国であり、こんな研究もあることを参考にしていただければ幸いです。
0 件のコメント:
コメントを投稿