昨年の12月、自分のために、がんばってピアノを買いました。
オーストリア、ウィーンに1910年に誕生したピアノーメーカー、Wendl&Lung社のアップライト。
88鍵
ウォールナット艶出し仕上げ
ドイツ レスローワイヤー
独フェルトハンマー
木目もきれいな一枚板で仕上げられた、美しい猫足の、新品のアップライト。高さは115cm、幅は58cm。色は茶色。
こう書くと、何やらとても高級感の漂うオーストリア製ピアノという感じがしますが、実はこのピアノ、地元の中古ピアノ販売店の激安チラシにのっていた目玉商品で、どういうわけか某国産の中古ピアノの上級モデルよりもずいぶん値段が安かった!!!
ドイツのピアノというと、Boesendorfer, Bechstein, Steinwayに代表される名器が思い出されますが、Wendl&Lungはこれまで聞いたことがありませんでした。早速調べてみると、ウィーンに1910年に作られた、現在4代目Peter Veletzky氏が率いる老舗。彼の祖母は、19世紀にあって、女性としてオーストリアで二人目にピアノ製造のマイスターの資格を取ったStefanie Veletzky。2005年にはデンマーク王室にグランドピアノを献上。きれいなウィーンの店舗Klaviergallerie Wendl&Lungでは、展示されているピアノを使って小さなコンサートも開けるそうです。興味深いのは、Veletzky氏率いる24人のスタッフの国籍が様々なこと。日本人、韓国人、中国人の三人の美女と、それぞれ平均六カ国語を話す感じのよさそうな東欧出身者にオーストリア人。東欧とヨーロッパの境に位置するウィーンならでの、国際的な顔ぶれです。ピアノ運び専門職人の筋骨隆隆なおじさん三人だけ、使用言語:「ウィーン語」とあります。先見の明があるこの四代目社長は、1999年自ら中国に乗り込み、中国に工場を設立し、「euroasiatisch」なピアノを生産中。高品質でリーズナブルなピアノを積極的に販売中で、販売店をサイトで探すと、さながら仮想世界旅行が楽しめます。ドイツ、オランダ、北欧、東欧、イギリス、中国、韓国等で扱われていて、ヨーロッパでは、アップライトが平均2000ユーロ以上で取引されているので、円に換算すると日本では高めの価格設定といえるでしょう。明らかにこれはご当地ヨーロッパでもピアノ販売業界に価格破壊を起こしていると思われます。
今月の22日付の新聞で、国内最大ピアノ大手メーカーが、少子化で販売台数を減らし、更に世界的な競争を生き残るために、上級モデルを「産地」品として売りに出たという記事がありました。シャープの最新鋭液晶テレビ「亀山」モデルに続いて、工業製品に産地名をつけることで、他との差別化を図るのだそうです。この記事からも改めて分るように、まさに日本のピアノ作りのコンセプトは、木の箱に入った工業製品なのですね。性能という点では、日本車と同様、世界トップクラスです。ピアノは「工業製品」なので、中の部品には確かに耐久性、性能に大きな差があります。しかし、素人が演奏を楽しむには、合板の箱に入った優秀な工業製品よりも、しっかりした一枚板でできている楽器の方が「響き」を楽しめる気がします。国産ピアノのアップライトは、住環境にあわせてグランドピアノを代用させるという目的があるため、音を大きく、華やかにするために、背中の響板の面積が大きい、つまり背の高いものほど上級モデルとなります。必然的に木を沢山使わなければならない。しかも、世界最高級ピアノのBoesendorfer社の生産台数と比べると100倍近いので、一枚板を使用したらコストが高騰して、安く高品質の「made in Japan」が崩れてしまうのでしょう。でもドイツ従来のアップライトピアノは、(御三家はそれぞれ全く違うコンセプトで製造されている)、一般的にもともと背が低いのがスタンダードであり、そのかわり、外の木のボディーがしっかりしていて、響板だけではなく、ピアノ全体に音が反響するので、国産よりも柔らかい音がします。
Wendl&Lungのアップライトも、従来のヨーロッパ型をきちんと踏襲しており、この価格帯のピアノとしては小型でも明るく温かい音色がして、嫌がる娘たちを道連れにしたアンサンブルを楽しむには十分です。
それにしても、どこの国のピアノ販売のサイトを覗いても、ピアノのためにある一定の「気品」が演出されているのに、日本ではピアノは激安チラシに「産地特売品」・・・もうほとんどマグロの叩き売り状態。それだけ身近に取引きされているということでしょうか。
A.A
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