2016年6月13日月曜日

【学生記事】BAB 555 アウトバーンの歴史をたどる





Quelle: Wikimedia Commons/Harald Hoffmann

 

 伝説や逸話というものは、とかく独り歩きしやすいものです。ではなぜそのような結果になるのでしょうか?一方には出版という形で、また一方には映像やラジオを通じて、ということが考えられます。そして事実を意図的に歪めるものが、いわずと知れたプロパガンダというものです。そんな昔のプロパガンダは全部分かっているから、今更書く必要もないだろう。あるいはそうかも分りません。しかし政治宣伝が巧妙に利用されたらどんなことになるか、そうした歴史を今一度見直してみるのも無駄ではないでしょう。

 
 BAB 555 (Bundesautobahn) KölnBonn間を結ぶドイツ初のアウトバーンです。完成したのは193286日、そしてヒトラーが政権を握ることになるのが1933年です。計画では、アウトバーン建設によって、多くの雇用が生まれ、そのために掘削機の投入を禁止することになっていました。しかし定説では、「ヒトラーによって」アウトバーン建設が実行に移され、失業者が大幅に減少したことになっていますこれらはテレビなどでも観ることのできる情報です。それに対して真説であるのは、BAB 555 は当時の Köln市長、Konrad Adenauer によって計画され、建設が進められたということです。しかしなぜ、そうした真説は伝わりにくくなってしまったのでしょうか?ここに巧みな情報戦略が紛れ込んでしまったのは、陳腐な言い回しかもしれませんが、歴史の悲劇なのでしょう。ヒトラーは実際、このアウトバーンを政治的に利用できると考えていました。そこで彼は、19339月、Frankfurt am Mainにおいて「初のアウトバーン」建設工事の鍬入れを行いました(道路はDarmstadt にまで及びます)。それ以前、ヒトラーはAdenauerAutobahnを国道に格下げし、最初にアウトバーンをつくった人間としての名声を得ることに成功したわけです。言い換えれば、雇用創出に効果のあるアウトバーン建設を、自分の計画であったと主張しているようなものです。

 話がややこしくなってしまいましたが、私の読み解くところでは、まずアデナウアーの手によるBAB 555 が国道に格下げされました。そしてヒトラーが「初の」という形容詞を付け、大々的にアウトバーン建設を推進したために、今の定説がある私自身はそのように読みました。

 
 私たちがここから読み取れることはなんでしょうか?ドイツで「ヒトラーは最初のアウトバーン建設とは関係ない」といった記事が書かれているということは、関係があると考えている人もいるということです(私もそうだったのですが)。メディアをプロパガンダ目的に利用されたということは、規制もあったということ。つまり問題になってくるのは、報道の自由です。独裁者のいる国はたしかに激減しました。ただしメディア規制はいつ、どのように行われるか分りません。ですから真実を追求するジャーナリストの存在は、将来も機械にとってかわられることはないと思うのです。

Yuki Watanabe

 

 追記:今回のアウトバーンに関する真実は、ZDFGeheimnis der Weimarer Republik 1929-1933: Der Weg in der Abgrund で知りました。興味のある方は動画サイトなどでも検索してみてください。なお、このDoku はシリーズになっており、該当部分は Folge 3 です。

 

今回参考にした記事:



 

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