2015年11月4日水曜日

オーストリアから広がる日本文化-Wegbereiterin von Katzen-Café in Österreich-


オーストリアから広がる日本文化
-Wegbereiterin von Katzen-Café in Österreich-
石光貴子さん

 ソフトパワーという概念を改めて感じさせられるときがあります。先日もZDFの„Zickenalarm!!“という番組を観ていたら、14歳の少女がコスプレをしてゲームショウ(もちろんドイツの話です)に行き、そしてMangaを買うというシーンがありました。続いて日本語教室で言語を学ぶという場面・・・。またMacmillan English Dictionaryでは「盆栽」がイラストつきで説明されています。海外では俳句と同様、愛好家も多いとか。無形のものとしては、阿波踊りが「誰でも受け入れる寛容の精神」を象徴するものだとして、あるフランス人が本国で実施したというエピソードもあります。すべての日本文化が手放しで歓迎されるわけではありませんが、やはり文化という言葉には交流の二文字が似合います。
 今回はそんな日本発祥の文化、「猫カフェ」をオーストリアのみならず、ヨーロッパ、アメリカ、カナダにまで広めてしまった„Café Neko“店主、石光貴子さんに話を伺いました。

渡辺:„ Café Neko“はどのような店で、石光さんは具体的にはどのようなことを担当されるのでしょうか。

石光:ごく普通のカフェに猫が5匹歩き回っているという店です。私はオーナーで、清掃、調理、皿洗い、税務署への申告などすべて自分で毎日働いて、お手伝いとして6名パートタイマーをお願いしていますが、彼女たちは主にサービスを担当しています。

渡辺:なぜオーストリアに、引いてはウィーンに開店しようと思ったのでしょうか。

石光:オーストリア在住25年以上です。オーストリア人と結婚して2児をもうけたのですが、子供たちが2・5歳の時に夫が急死。当時専業主婦だった私は途方にくれましたが、オーストリアの福祉制度のおかげで生き延びることができました。子供たちが大きくなって(大学生、下も大学入学資格を取れました)、ずっと、オーストリアに何か恩返しをしなければと考えていましたので、職業コンサルタントに相談して、知られていない日本の文化をご紹介することなら私にもできるし、オーストリアの文化と経済のためになる、という観点から、最初の一歩として猫カフェをプロデュースすることにしました。次はクラゲの水槽をおいたバーです。日本酒も出します。工事始めました。 

渡辺:開店はオーストリア初の試みということで、やはり日本とオーストリアでは文化も法律も異なり、色々開店にこぎつけるまで苦労があったと思います。そのあたりのお話をお聞かせください。

石光:まずカフェ業者組合に行って、私の計画している店はカフェの範疇に入るのかどうか確認。市役所の無料起業相談日にアイデアをプレゼンテーション。それから4年かけて各担当課とこまごました交渉。前例がないので、時間がかかりました。私は動物飼育者の資格を取得するため学校にも通いました。

渡辺:お客さんの反応はいかがでしょうか。„Alles über Katzen“というサイトがあり、またドイツ語の辞書を出版しているLangenscheidtも„Langenscheidt Katze-Deutsch/Deutsch-Katze: Wie sag ich's meiner Katze?“という本を出しています。どちらもドイツで、オーストリアとはちがいますが、やはり猫好きな人間というのは世界中どこにでもいると思います。

石光:反響はすごかったです。開店が2012年5月でしたが、BBCでもすぐ放映されたそうです。その夏にはチリ、インド、ロシア、オーストラリア、USA、その他の国から「自宅で新聞(あるいは雑誌・ラジオ・TV)で知って、すぐ見に来た」という人が押し寄せ、てんてこ舞いでした。カナダの役所からコンタクトもあり、カナダでも猫カフェを営業できるように法律を変更したいのでオブザーバーとしてプロジェクトに参加してほしい(こちらはウィーンの役所担当官達の連絡先を渡しておきました)という話もあり。2012年にはもうミュンヒェンにも猫カフェがオープン、今ではロンドン、パリ、ブダペスト、ケルン、ベルリン、ニース、NY、スペイン、雨後の竹の子状態で開店しています。ポルトガルからは、法律をつくらなければならないから、ヨーロッパ各国の関連法を調べています。協力してください、という連絡がきましたし、いろいろな国の、猫カフェ起業を計画している人たちからアドバイスを求める連絡がありました。今ではいくつかのガイドブックにも掲載されています。

渡辺:視点を広げて、ウィーンないしはオーストリア全体の反応という点ではいかがでしょうか。

石光:開店前は賛否両論で、ものすごい騒ぎになり(感情的になってもう泥かけ試合という感じ)、市長に抗議のメールを出した人もいましたし、私にもいくつか脅迫メールなど、来ていましたが、開店してしばらくたったら、別に悪いものではないということをわかってもらえた様子で、今ではポジティブな意見しかききませんねー。あれは面白かった!

渡辺:私は子供の頃に猫を飼っていて、今もどちらかといえば猫派(犬派に対しては)です。石光さんの猫に対する愛着は、どこに端を発しているのでしょうか。

石光:動物はなんでも好きです。犬、小鳥、うさぎ、亀、金魚、ハリネズミ、猫を飼ったことがあります。カフェで働く動物に猫が一番適しているというだけです。いやなことがあってもエレガントにいやだと言える(乱暴なお客がいたら手の届かないような高いところに登ったり、他の部屋に行ってしまえばOK。ひっかいたりかみついたりしても犬のように大した傷にならない)ところを重要視しています。



渡辺:„ Café Neko“ではどのような種類の猫がお客さんを迎えてくれるのですか?

石光:ウィーン動物協会に当時いた猫700匹から、完全室内飼いと不特定多数の人間に対してストレスを感じない猫を厳選してもらいました。雑種3匹とメインクーン2匹です。


渡辺:海外で働くことについて、利点、不便に思うことなど意見をお聞かせください。

石光:私はウィーンと日本しか知らないわけですが、両方のことを知っていることを武器に、また、「両国をつなぎ、相互理解を深めることのお手伝い」、これが私の役目だと思って仕事を選んできました。最初はJTB、その後政府代表部で、オーストリアにいる日本人をヘルプしてきましたが、今回はオーストリア人にもっと日本のことをしってほしい、とサイトを変えたところです。不便に思うことは強みに転換すればいいだけです。

渡辺:獨協ではオーストリアに留学する学生もおり、また卒業後にウィーンの大学に入学した人もいます。そうした学生たちにメッセージをお願いします。

石光:私は高校の生物の授業で、遺伝子の話をきいたとき、先生がミックスしたほうがミュータントが発生する率が高く、新しい環境に順応しやすいとおっしゃたことで、考えさせられました。情報や運送の技術の進歩に伴って、世界は狭くなっていきますよね。何百年か何千年後には地球外生物とのコンタクトもあるでしょう。そんな日本とかオーストリアとかではなくて、地球、その他の惑星、というスケールが常識になる時代が必ず来ます。私はその時のために、準備として、最低2人ハイブリッドの子供を生もう、とその時決心したのです。日本人と他の国のハイブリッドを(主に写真を見た程度ですが)どんな様子か調べて、私にはゲルマン・日本の混血が一番よさそうに思えたので、オーストリア人と結婚しました。・・・というのは半分うそです。その話はすぐ忘れていたのですが、偶然オーストリア人と結婚してしまって、子供が2人生まれて、ずいぶんあとになって高校時代の決心を思い出しました。無意識に残っていたのだと思いますが。

ということでみなさんもグローバルな意識をお持ちになって頑張ってくださいね。ウィーンで困ったことがあったら気軽に相談してください。

以上でございます。

渡辺:ありがとうございました。


(Interviewer:渡辺友樹 ドイツ語学科3年)

Café Neko: http://www.cafeneko.at/
Facebook: https://www.facebook.com/Caf%C3%A9-Neko-451277494889818/

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