2013 年春、ドイツ語学科にバリバリの新任として着任される 2 人の先生、秋野有紀先生と植村敏郎先生に インタビューしました。
秋野有紀先生
――始めに、秋野先生について教えて下さい。
私は学部から大学院は、東京外国語大学の外国語学部ドイツ語学科で、博士論文を書くときに、ドイツ唯一の文化政策研究所があるヒルデスハイム大学に留学しました。博士論文は両校の共同指導による学位論文としてドイツ語のものを提出しました。専門は文化政策です。「文化」は教養の高さを表すものとして、ポジティブに捉えられがちですが、実は見えない「差別の装置」にもなりえ、文化政策も社会にとっては両義的です。劇場や美術館に予算を配分すること=文化政策だと思われがちですが、お金の配分は、その社会が「文化」をどのような位置づけで捉えているかと深く関わっています。なので、ドイツの文化政策を研究することは、ドイツの社会と文化を知ることでもあり、地域研究の側面も持っています。
――先生はなぜドイツの文化政策を研究しようと思われたのでしょうか?
ヨーロッパに関心があり、中でも自分にとって一番馴染みのない国がドイツでした。最初から研究をしようと思っていたわけではなく、3、4 年時には就活をしていました。その時は外務省を受けていて、筆記試験 はかろうじて通ったものの面接で落ちてしまって。他の企業を受けていなかったので、まだ願書が間に合った大学院を受けました。でも外交官試験の勉強をしていたことにも1つメリットがあって、法律や経済をひと通り論述試験対策として勉強できたことです。それをどこかで少しでも役立てようと思ったことと、子どものころからバレエをしていたのですが、そのころからの「なぜ日本ではバレリーナは欧米のように職業として成り立たないんだろう?」という疑問が混ざり、劇場大国ドイツの文化政策を研究してみようと考えるようになりました。なので、ドイツを選んだのも、研究の道に進むことになったのも、ある意味“偶然”です。でも、自分が子どもの時から今までしてきたことが掛け合わさって、ドイツの文化政策研究というものに落ち着きました。
――お好きな文学や音楽は?
アイン・ランド『水源』、冲方丁『天地明察』などです。主人公がひたむきに頑張っていて、読後に清々しい気持ちになれ、タイムスリップできる小説が好きです。また数学者の広中平祐さん、藤原正彦さんの留学16エッセイは留学中の愛読書でした。ロシア語通訳の米原万里さんの本も、通訳の裏話などが面白く、お薦めです!ドイツ語の音楽は、Xavier Naidoo, Herbert Grönemeyer, Die Prinzen をよく聴きます。
――先生のお考えでは、ドイツについて学ぶメリットは何でしょうか?
日本にいると、「外国=アメリカ的なもの」というふうになりがちだと思うのですが、英語や日本語に翻訳しきれないドイツ的思考回路のエッセンスを吸収し、ドイツというもう一つの立脚点を持つと、そこから世界や見方をぐっと広げることが出来ます。ドイツは物価もそこまで高くないし、比較的安全な外国なので、 留学はしやすいです。なので、最初にドイツを起点としてある程度エキスパートになり、そこを一つの軸に また次を開拓していくというのは、日本人が欧州に出て行くためには、効率的な戦略だと思います。
新入生の皆さんは、ドイツ語を選んだからドイツ語圏としか向き合えない、他の言語の方が良かったかも? と「消去法」で考えるのではなく、日本を含めたアジアのことを考える際にも、ドイツ語を選んだからこそ、歴史、文学・文化、政治、経済、社会の制度(環境制度や文化政策)など、かなり幅広い分野で参照項を見 出すことができ、多角的な考察が可能になるメリットにどんどん目を向けてみて下さい。日本では現代ドイツの情報も少ないので、あえてドイツを専門的に知っているということは、案外強みになるんですよ。
――先生が考えるドイツ語を勉強するコツは?
(1) ドイツ語の例文はジョークで覚える。漫画『宇宙兄弟』の主人公も英語でそうしていますよね。会話にもとっさに使えるかもしれないし、実用的だと思います。そして何より楽しい!
(2)DVD を日本語⇒ドイツ語の順に見る。私の場合、日本語でまず見て、自分が使いそうな表現(「お疲れ様」や「ぼーっとしてただけ」など)を拾った上で、ドイツ語をメモします。
(3) 忘れても気にしないで、続ける。「語学は才能」という神話もありますが、気にしすぎて「自分は向い ていないのかも...」と悩まないことが重要です。繰り返し接して慣れていったら、誰でもある程度「語学の できる人」になれるはず!と私は信じています。
......あまり言われてなさそうなことを 3 点、あえて挙げてみました。
――新入生と在学生へメッセージをお願いします。
在学生の皆さんへ:
私の座右の銘は「選んだ道を正解にする」というものです。 あるスポーツ選手が「選んだ道を正解にする努力はしてきました」と取材で答えていました。人生の色んな分岐点で、迷い、後悔することもあると思います。でも、選んだ道を「正解にする努力」なら、あとからどれだけでも出来ます。進んだ道を悔やむより、自分の力で「成功」にしてしまえばいい。そう思えたら、自分で思い切った道を選ぶことも、大事な側面で選ばれることもそれほど怖くない気がしてきます。
新入生の皆さんへ:
ドイツ語を学ぶのは大変だと思いますが、1 回 1 回の授業に頑張って出て下さいね。試験でいい点をとるとか、予習をするとかいうことと並んで、気乗りしなくても大学に来るというのも立派な 努力ですし、「あー今日は頑張って授業に出た!」って認めちゃっていいと思います。その 1 回 1 回が、気づいたらものすごく遠いところまで連れて行ってくれます。「ドイツ語なんてもう嫌だ」と思うこともあるかもしれませんが、私の大学での同期は英語メインで仕事をしている人であっても、案外ドイツ三昧でいられた4 年間を幸せな思いで振り返っています。もしかすると、元々自分の中にドイツ語圏っぽいものを潜ませていた人が、気づかずドイツ語学科に引き寄せられてくるのかもしれません。
そう考えると、ドイツ語学習者は「ドイツ語に選ばれた人たち」なのかもしれません。
大学時代という人生の貴重な 4 年間、幸か不幸かドイツに「選ばれちゃった」みなさんの大学での授業時 間が少しでも楽しく有意義なものになるよう、私も努力していきます!
――秋野先生本当に有難う御座いました!
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