講演の後半部では,ハンスがイラ ストやコマーシャルに描かれている様子を発表直後の1820年代からていねいに跡づけ ていました。 考えてみると,メルヒェンの主人公は,ほとんどが上昇志向を持っていて,富を得た り,身分が上の人間(王子や王女)と結婚することで幸せになります。ところがこのハ ンスは,そのまったく逆を行く存在で,最後は無一物になりながら,故郷の母のもとへ と喜びながら帰っていくのです。ハンスとは,上昇志向の「近代」のアンチテーゼとし て,「ポストモダン」な存在なのかもしれません。
ヴィンカー=ピーフォ教授の講演は,広範な知識を駆使して,メルヒェンや民話に描か れるお城のタイプを分類し,そこにある崇高の美学などから,現代のお城(高層タワー など)の意味までを探る意欲的な論考でした。とくに,皆さんもご存じのノイシュヴァ ンシュタイン城(1886年完成)のモデルとなったイラストが紹介され,この城のメル ヒェンとの関連が明確にされました。
1862年,当時一般的な物語メディアだった「一枚絵」に崖の上に立つ,たくさんの塔 がある城が描かれました。このイラストをもとに,同じ年の仮面舞踏会の舞台セットに 城が造られ,これをルートヴィヒ2世などが見ていて用いたのだ,との指摘。これはあ まり知られていない事実で,驚かされました。 メルヒェン民話研究の最先端にふれることができた,非常に内容の濃い講演会でした。 会場の35周年記念館小講堂には,140名を超える聴衆がおいでくださり(半数以上が外 部からのお客様でした),熱心に聞き入っておいででした。アンケートの結果からも, 非常に満足度が高かったことがうかがえました。 (ty)
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